2020年7月に読んだ本の中でお奨めのものを紹介します。
・オスマン帝国の崩壊:中東における第一次世界大戦(ユージン・ローガン )第一次世界大戦前のオスマン帝国は西欧列強に翻弄されその領土を切り取られつつありました。
西欧列強に対抗すべく青年トルコ人による革命が起き、ドイツと同盟を組み第一次世界大戦への参戦とその敗北によるオスマン帝国の崩壊の過程を詳細にたどります。
オスマントルコ、中東における第一次世界大戦の解説です。
第一次世界大戦に関する本は多くがヨーロッパ中心となりますが、本書は全編にわたって中東が舞台です。
英仏の敗北に終わったガリポリの戦いを始め、エジプト、パレスチナ、メソポタミア、アラビア半島、コーカサスと各地で繰り広げられた戦いの経過やその影響が詳細に書かれています。
一般的なイメージとは異なりオスマントルコは各地で善戦していたし、特にガリポリの戦いで英仏を撃退したことは大きな意味を持ちました。
また、アルメニア人に対する虐殺についても詳細にその過程を追っています。
オスマントルコの戦いはイスラムによるジハードという側面もあり、ジハードを呼び掛けるオスマントルコのスルタンと植民地下のムスリムの動揺を抑えようとする英国という面から見ても非常に興味深いです。
インドでムスリムの反乱がおきると英国に大きなダメージを与えたでしょうし、だからこそ戦局がよくないときにアラブ人による蜂起を促し、問題となったフサインマクマホン書簡が交わされます。
中東で様々な国家、人種で繰り広げられた激戦を考えると、やはり第一次世界大戦が世界大戦とされたのはオスマントルコの参戦があったからこそだと思います。
そしてかつて栄華を誇った600年にわたる帝国が崩壊していくさまはまさに歴史のドラマですし、現代人がロマンさを感じる最後の物語のように感じます。
中東での第一次世界大戦はどのようなものだったのか、オスマントルコはどのように最期を迎えたのかに興味がある人には必須の本だと思います。
各地での戦いを詳細に解説しており大部な本ですがお薦めです。
・語りえぬものを語る(野矢 茂樹 )我々はどのような世界を生きているのでしょうか。
著者は相対主義、因果、相貌論、懐疑論、私的言語、知覚と概念などのパラドックスに陥りがちでまさに語りえずそこにあることを指し示すことしかできないような問題を著者のたどり着いた哲学的地平を語ってくれます。
本のPR誌で連載されたエッセイにその補論、注釈を加えたものです。
エッセイの形を取っているので語り口は平易ですし、読みやすいのですがその内容は刺激が満載のまさに哲学者がどのように考えてきたかを読者に語ってくれています。
可能世界である論理空間、そして実際の生活に近い行為空間、あるいは相対主義の在り方、未来をどう考えるかなど、そんな風に考えるのかと驚きが満載でした。
哲学というものが私たちの生活の近くにあるもので、実生活に根差した思考の冒険であることを改めて気づかされてくれる一冊です。
内容は深いのですが、それほどつっかえることなく読めると思うので、哲学に興味がない人にでも手を取ってほしいお薦め本です。
・その女アレックス (ピエール ルメートル)帰宅途中にアレックスという女が誘拐され、監禁されます。
誘拐が目撃されて警部のカミーユのチームはすぐに捜索に入りますが、アレックスには驚愕の秘密が隠されていました。
誘拐ものかと思って読んでいると、話が違う方向へと進んでいきどんどん引き込まれました。
3部構成になっていますが、構成が秀逸で読者の目線を変えていく感じが面白いです。
ネタバレになるのであまり書けないですが、アレックスとカミーユという2人の主人公のキャラの際立たせかたとその秀逸なストーリー展開をぜひ味わってほしいです。
悲しい話なのですが、最後に救われるようなエピソードが一つ添えられているのが良かったです。
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