人生の暇つぶし

2016年にリタイアしました。アーリーリタイアや資産運用、旅、読書などのネタを徒然なるままに書き綴ります。

2019年10月のお奨め本

2019年10月に読んだ本の中でお奨めのものを紹介します。

・経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く (牧野 邦昭)

太平洋戦争開戦前、陸軍は経済学者たちを集めて日本やアメリカ、イギリス、ドイツなどの戦争遂行に関わる国家の経済抗戦力の研究を行っていました。
経済学者たちは日本の戦争遂行能力をどのように評価しており、その報告書は日本の政策にどのような影響を与えたのかを、近年発見された調査報告書から辿っていきます。
そしてなぜ日本は無謀な戦争に突入してしまったのかを検討していきます。

秋丸機関による報告書は日本が戦争できるのはせいぜい2年ほどというものでした。
アメリカと日本の埋めようもない国力の差は当時の知識人にとっては常識的なものでしたし、それを公言しても弾圧されるものでもありませんでした。
軍内部でもそんなことは当たり前であったはずにもかかわらずなぜ日本はアメリカと戦争をしてしまったのでしょうか。

著者は行動経済学や社会心理学的な見方からその理由を紐解いています。
世論が戦争へと向かっていたことや軍内部の暴発などを恐れていたことなどを別にすれば、損失バイアスと強力な意思決定者の不在の影響が強く働いたのではないかと筆者は考えます。
日本が何もしないとじり貧に陥り確実に衰退するのなら、勝ち目は限りなく少なくても一か八かで戦争をしようという選択は比較的小さな損失を過大評価してしまう典型的な損失バイアスです。
このような場合ではドイツがソ連に勝利すればというような根拠のない希望を過大評価します。
また、強力な意思決定者がいないと過激な選択へと流されやすくなります。
当時の日本の内閣は権力を制限されており、軍部にしても官僚の集団であり、日本を導く強力な指導者は存在しませんでした。
比較としてナチスと親和的でありながら様子見の姿勢を崩さなかったスペインのフランコの独裁政権を上げています。

経済学者たちが当時、日本やそのほかの国の経済力や戦争遂行能力をどのように見ていたのかは非常に面白いですし、全体像としては現在の私たちの常識的な見方と変わらないことに驚きます。
それでも開戦してしまう過程と経済学者たちの報告がどのような影響を与えたのかとても興味深いです。




・不在の哲学 (中島 義道)

不在とはそこにあるのではないが想起できるような対象です。
地球の裏側に友人が出張で滞在していることを想起できますが、私の目の前にその光景が実在しているわけではありません。
私は30年前の高校の卒業式を想起できますが、これも現在のことではありません。

不在が問題になってくるのは人が言葉を学び、観念的な世界を受け入れ脱自己中心化し、さらに二次的に再度自己中心化するためだと著者は述べます。
普遍的な世界を知りながら、いま、ここにいる私の世界があり、そしてそれ以外の不在があり、さらにそれらの不在が私を生み出しているような世界です。

この不在という言葉から中島哲学を展開していきます。
時間論が私という同一性が中心ですが、まさにこれこそが不在を想起することによって成立する現象だからでしょう。
さらにはデカルトのコギト、自由論、決定論や心身問題へと展開していきます。

内容が難しいのでうまく説明できないのですが、世界認識の仕方としてかなり私にはしっくりくるものでした。
著者の思想が円熟味を迎えたのではないでしょうか。
内容は難しいのですが、他の難解な哲学書ほど何を言っているのか分からないということはないと思います。



・ハリー・オーガスト、15回目の人生 (クレア・ノース)

1919年に生まれたハリー・オーガストは1度目の人生を終えたとき、再び1919年に誕生します。
彼は6歳頃には前回の人生を全て思い出します。
それからハリーは死ぬたびに1919年に戻ってくるという無限の人生を歩みます。
何度も人生を繰り返すうちにハリーはクロノスクラブという同類たちの集まりや、同類のメッセージが過去や未来へ伝えることができることを知ります。
そしてハリーは未来の同類から人類の滅亡の時期が早まっていることを知らせるメッセージを受け取ります。

人生を何度も繰り返すというループものです。
けれどこの本はループものをベースとしながらも新しいスタイルで展開していく話です。
ループそのものをテーマにするとどうしても似たような話になると思いますが、本書はそこにとどまらないループの世界で発生する陰謀や野望とその阻止がストーリの軸になっています。

どんなループものなのかと思って手に取りましたが、期待を大きく上回るものでした。
著者は20代ですが、よくこんなものをかけるなと感心するばかりです。
16歳で小説家デビューした女性が別名で書いたものだそうです。

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[ 2019/11/09 17:04 ] 今月のお奨め本 | TB(-) | CM(0)
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